桜川の山桜を愛で、古の神社仏閣を訪ねる
茨城県桜川市は桜の名所である。桜川の桜は古くから「西の吉野、東の桜川」と称されるほどで、その美しさを讃えられてきた。ソメイヨシノと違い、一本ごとに色、形、匂い、開花時期の異なる多彩な山桜が群生する桜川の景観は、昨今その価値が広く見直されてきている。
2016年4月9日(土)晴れ
雨引観音
雨引観音(雨引山楽法寺)は、梁(現在の中国江南の王朝)の法輪独守居士が587年に開山したと伝えられる古刹である。その後、弘法大師によって真言宗の道場となり、現在は安産子育ての霊場として広く知られている。桜やアジサイの名所でもある。
薬井門は俗称「黒門」といい、元は楽法寺の表門で麓の集落の中央にあったものを移築した。それに続く石段は磴道(とうどう)で、俗に厄除けの石段といわれている。石段の両側には3000株のアジサイが植えられ、毎年行われるあじさい祭には多くの観光客が訪れる。
本堂に向かう石段の途中に宿椎(やどしい)と呼ばれる大きなスダジイの木がある。全身をくねらせた姿が最大の特徴で、樹高15m、幹囲7.5m、樹齢400年といわれている。「宿椎」という名は、室町時代に寺が火災に遭った時、御本尊がここに避難して仮の宿にしたことに由来するそうだ。
境内には桜、アジサイ、牡丹、ツツジなど多くの樹木が植えられているほか、クジャクや長鳴鶏なども放し飼いにされている。
磯部桜川公園
磯部桜川公園は世阿弥の謡曲「桜川」の舞台で桜の名所である。丘陵地に造られた公園には30種類ほどの桜が植えられており丁度見頃を迎えている。特に珍しい種類の桜が多い。公園一帯は1924(大正13)年に国の名勝に指定され、1974(昭和49)年には国の天然記念物に指定された。
散り始めた桜のはなびらを浮かべた水面に満開の桜が映え、一服の絵のようだ。
園内には茨城百景「謡曲桜川の桜と富谷観音」の石碑と国指定の「名勝櫻川」の石碑が建てられている。
櫻川磯部稲村神社
磯部桜川公園から程近い場所に櫻川磯部稲村神社がある。この神社は徳川光圀の参詣を受けたといわれている。『後撰和歌集』には紀貫之が詠んだ歌「常よりも春辺になれば桜川波の花こそ間なく寄すらめ」があり、多くの歌人たちが歌を残している。境内にある「紀貫之の歌碑」と「木造狛犬」は、茨城県の指定文化財に指定されている。
神社本殿の脇を抜けると磯部館土塁・空堀跡がある。
更に進むと大きな枝垂桜が植えられた場所があり、桜の前には由来が書かれた立て札が立てられている。室町時代、能楽者世阿弥によって作られた『謡曲桜川』に登場する伝説の枝垂桜があり「青柳の糸桜」と呼ばれていたが、その後枯れてしまい、二代目の糸桜の枝から育てたのがこの三代目の桜だという。
咳嗽神社
櫻川磯部稲村神社から道路を挟んで反対側の細い道を少し下ったところに咳嗽神社(しゃびきじんじゃ)がある。神社の横には御手洗池(みたらしいけ)があり、昔は磯部稲村神社で神事が行なわれる際、神主さんがこの池で身を清めたそうである。池の近くにある椿の木は根本にツバキの花の形が見える。
高峯の山桜
高峯(たかみね:標高520m)をはじめとして、桜川市の山々にはヤマザクラが多数自生している。山桜はソメイヨシノと比べて開花時期が若干遅く、桜花の淡紅色と赤芽が木々のもえぎ色の芽吹きの時期と重なり、パッチワークのような眺望を楽しむことができる。高峯に向かう平沢林道はヤマザクラの開花時期に車両進入禁止になる。
平沢高峯展望台に向かって林道を暫く登ると、伝説の巨人だいだら坊が背負って運んだとされる「だいだら坊の背負い石」がある。石の前に建てられた石板に「背負い石」のいわれが刻まれている。
だいだら坊の背負い石のある場所から折り返して元の道を戻ることにした。
富谷観音
富谷山の中腹にある施無畏山小山寺(せむいざんおやまじ)に立ち寄る。小山寺は735(天平7)年に行基菩薩が開山したと伝えられており、地元では富谷観音(とみやかんのん)の愛称で親しまれている。周辺にはハイキングコースが整備され、小山寺の西側にある富谷山ふれあい公園の展望台からは市街地や筑波山を一望できる。
境内にあるご神木の大杉は樹齢700年以上といわれ、市の天然記念物に指定されている。
境内には室町時代に建造された三重塔、江戸時代に再建された本堂、江戸時代に建造された鐘楼がある。本堂の周りには絵の描かれた額が架けられ、本尊は行基作の木彫りの十一面観音菩薩像である。三重塔は関東最古といわれ、国の重要文化財(旧国宝)に指定されている。開運・安産・子育てに御利益があるとされる。
八柱神社
富谷観音から筑波山方面へ南下して桜川沿いにある八柱神社を訪れた。案内板によれば890(寛平2)年の創建。明治の初めまでは金剛院と号する真言密教の寺院であった。維新後の神仏分離・廃仏毀釈で破却されそうになった際、近くに散在した8柱の神々を合祀、1871(明治4)年に八柱神社と改称した。
現在の建物は1785(天明5)年の建立で、拝殿は1987(昭和62)年に全面的に改築復原されたそうである。本殿は全体が極彩色に彩られ、精緻な彫刻類が建物の外周を埋め尽くしている。
神社の境内には幹囲8.8mのケヤキの巨木がある。主幹であった部分は朽ち果てて空洞になっており、枝につながる部分だけが辛うじて生きている。この木は「八柱神社のケヤキ」として真壁町の天然記念物に指定されている。
つくし湖
真壁町のつくし湖は、1992(平成4)年に完成した霞ヶ浦用水の人造湖である。湖の周囲にはソメイヨシノの桜が植えられ、湖畔には週末のみオープンする「そば処つくし亭」がある。