神秘の秘境・黒部峡谷と立山黒部アルペンルートをゆく
秘境・黒部峡谷をゆく。黒部川沿いを走るトロッコ列車で黒部峡谷の険しさを感じ、さらに立山駅から信濃大町までの立山黒部アルペンルートを抜けることにした。また、「世紀の大事業」として各方面で語られることの多い「くろよん建設の歴史」にも触れてみたい。
2006年11月1日(水)晴れ
上越新幹線
東京駅で上越新幹線とき号に乗り込む。長岡駅まではおよそ1時間30分。いなり寿司弁当をほおばっているうちに長岡駅に到着。
長岡
長岡市は新潟県下第2位の商工業都市であり、市の中心部を信濃川が貫いている。また日本屈指の豪雪地帯でもあり、道路には消雪パイプや縦型信号灯器などの積雪に対応した設備が多く見られる。今なお田中角榮元首相の影響が残る地でもある。
長岡駅からは越後交通の観光バスに乗り換え、北陸自動車道を利用して富山を目指す。
新潟県と富山県の県境では親不知子不知海岸を通過。断崖絶壁がしばらく続く。この場所は糸魚川静岡構造線の日本海側に当たり、実質的に東日本と西日本の境界となっている。親不知は古くから交通の難所として知られ、多くの旅人の行く手を阻んできた。この場所を通過する北陸自動車道は、日本初の海上高架橋として開通し、その全長は東京湾アクアラインの海ほたる-木更津間に次ぐ長さである。
その後、糸魚川から黒部にかけては現在建設中の北陸新幹線の路線と併走する。遠くから見た感じでは、かなり完成に近づいているようにも見えた。北陸新幹線が全線開通すれば、東京、長野、石川、大阪を結ぶ新たな新幹線ネットワークが完成することになる。
あるぺん村
黒部インターを出て一般道に入り、あるぺん村に立ち寄る。富山の魚介類や名産品などが揃っている観光スポット。富山の名産品と言えば、やはり「ます寿司」なのだろうか。
宇奈月駅
黒部峡谷の入口となる宇奈月に到着。早速、予約しておいた「柏や 特製健康いなきび弁当」を受け取る。中を開けてみると、いなきびご飯がなんとも目を引くお弁当である。宇奈月駅前には黒部川電気記念館があり、黒部峡谷全体の模型などを見ることができる。
トロッコ列車
黒部峡谷鉄道は、軌道の幅が762mmという狭軌鉄道。それだけに車内は横一列3人が限度といったところ。列車は宇奈月―欅平間を、平均16km/hというのんびりとした速度で、約1時間20分かけて走る。山の紅葉とV字の地形が美しい黒部峡谷を眺めながら、列車は黒部川の上流へと進んでいく。
鐘釣駅周辺
鐘釣駅で下車。駅を出るとすぐ、対岸に万年雪が見える。鐘釣温泉旅館を過ぎてしばらく行くと、階段を下った先に露天風呂のある河原が見えてくる。町中の喧噪から隔絶された秘境とも言える深く険しい谷が、美しい景観を作り出している場所である。
宇奈月ニューオータニホテル
黒部峡谷鉄道の駅からほど近い、宇奈月ニューオータニホテルに宿泊。宇奈月温泉は黒部川上流にある黒薙温泉を源泉とした単純泉で、無色透明のお湯。なお館内の大浴場では41℃、42℃、43℃という三段階の温度が楽しめる。
長さ2m、太さ60cm、重さ150kg。黒薙から宇奈月までの引湯用として、昭和40年代まで使われていた。
2006年11月2日(木)晴れ
立山ケーブルカー
立山黒部アルペンルートの出発地点となる立山駅に到着。空きペットボトルがある人は、駅前にある名水「熊王の水」を汲んでおくとよい。ただし室堂へ行くなら、室堂にある湧水の方がお勧め。
高原バス
美女平から室堂までは高原バスに乗車。約50分の道のりで、バスの中では観光ガイドのDVDビデオが流れている。秋の室堂周辺の気温は氷点下になることも多く、防寒対策をしっかりとしておくことが大切。
春になると「雪の大谷」と呼ばれる、高さ十数メートルの雪の壁が出現する。2006年の雪の大谷は19mだったそうで、その迫力は抜群。とはいえ、雪ばかりなので景色は見えないのではないだろうか。
室堂
室堂の標高は2450m。立山黒部アルペンルートの中では最高峰である。雄山への登山者はここを起点にする。真夏でも気温は20度以下。レストランにて「山菜きのこ丼セット」をいただく。
展望台
室堂ターミナルの展望台からは立山の景色が一望できるはずなのだが、今日は霧でどうもよく見えない。展望台のそばにある「立山玉殿の湧水」は、立山連峰の中でも比較的おいしい水。折角なので記念に汲んでおいた。
室堂平を散策
室堂平一帯は高山植物も生息し、また温泉なども点在しているので、散策にはもってこいだ。ミクリガ池を一周するコースでおよそ1時間。運が良ければライチョウの姿を見られるかも。
時折、霧が晴れて山々が姿を現した。目の前に広がる雄大な風景。
立山自然保護センター
中部山岳国立公園の一部をなしている。3000メートル級の山々がそびえる。入口では「ライチョウ国パスポート」を受け取り、隣にある機械にカードを差し込む。ガチャンとやると、ライチョウの足跡が刻印されたカードが出てくる。展示も良くできている。中でも「ライチョウシアター」はなかなかおもしろい展示だと思う。季節の変化とライチョウの姿を再現した立体的展示なのだ。他にも「立山空中散歩」では、迫力の空撮映像を楽しむことができる。とにかく、トロリーバスの待ち時間を持て余している人には最適。
日本一高い、立山トンネル
室堂から大観峰を結ぶのは立山トンネルトロリーバス。立山トンネルは日本で最も高い場所にあるトンネル(標高2420m)で、ほとんどが直線区間。バスはかなりのスピードで走り抜ける。ちなみにトロリーバスは、バスではなく鉄道に分類されるらしい。
関電トンネルと同じく、トロリーバスが運行。所要時間は約10分。1996年までは普通のディーゼルバスだったようだ。
大観峰
立山ロープウェイが発着する大観峰駅は、その人口密度の高さから「アルペンルートのアメ横」との異名を持つところ。売店では、にごり酒「大観峰」の試飲を楽しみつつ、次のロープウェイを待つ。にごり酒は甘酒のような、白く甘いお酒。
そしてロープウェイに乗る直前、なぜか駅員さんが写真集の宣伝をする。「1000円ですよ!」というところ、さすがアメ横と言われるだけのことはある。
ロープウェイの眼下には黒部湖、背後には後立山連峰が見えるはずなのだが、霧のため「360度の大パノラマ」は見えず。
途中に支柱のない「ワンスパーン方式」のロープウェイ。所要時間約8分。
地中を走る黒部ケーブルカー
日本では珍しい、地下トンネル式のケーブルカーに乗り、黒部湖駅へ。
日本最大級のスケール―黒部ダム
黒部湖駅からしばらくトンネルの中を歩くと視界が開ける。ちょうど黒部ダムの堤頂、左岸ウイングダムにあたる場所だ。この黒部ダムが完成したのは1963(昭和38)年5月。拡大する電力需要に対処すべく始まった巨大なダム建設工事は、7年の歳月と延べ1000万人の人手を費やした。この工事が後世に語り継がれるほどの難工事となったことは有名な話である。関連工事を含めて171名もの殉職者を出しながらも完成された黒部ダムは、今では周囲の山々と融合しながら水をたたえている。
黒部ダムは日本最大のアーチ式ドーム越流型ダム。「世紀の大事業」は黒部ダムという形で、その歴史を今に伝えている
新展望広場
ダムの右岸には展望台があるのだが、2003年6月にできたばかりの新展望広場からは、ダムからの放流を間近で見ることができる。
観光放水期間は6月26日から10月15日まで(今回は期間外でも放流していた)
黒部川に沿った山々の下には、通称「黒部ルート」と呼ばれるルート(トンネル)がある。このルートは黒部ダムを出発し、黒部川第四発電所を通って欅平へと抜けるルートである。関西電力が物資輸送用として利用しており、一般者は基本的に目にすることができないのだが、場合によっては見学会が実施されることもあるようだ。他に黒部ダムと欅平とを結ぶ道としては、日電歩道と水平歩道といった登山道もあるが、難易度はかなり高く、残念ながら一般者向きではない。
黒部ダムレストハウス
黒部ダムの脇に佇むレストハウスに立ち寄る。3階にある「くろよん記念室」では、模型などの資料展示の他、黒部ダム建設の記録映画「くろよん物語」が上映されていた。この映写室の内部は、トンネル掘削の工事現場内部を再現した造りになっていて、当時の現場の厳しさが伝わってくる感じである。売店で乗り物キューブ(6種セット)を購入。
6種セットの乗り物キューブなら、アルペンルートの乗り物全てが入っているのだ
関電トンネル
黒部ダム駅と扇沢駅を結ぶ関電トンネルは資材運搬用トンネルとして1958年に貫通し、1964年からは観光用トロリーバスの営業が行われている。黒部ダム駅を発車したバスは次第に速度を上げ、かつてトンネル建設の際に困難を極めたという破砕帯(水が溜まった軟弱な地層)さえも数秒で通過してしまう。所要時間約16分で扇沢に到着。扇沢に到着する頃には、すっかり日も暮れて辺りは真っ暗。
上田駅
扇沢から上田駅まではバスを利用した。上田市は上田城のもとに形成された城下町であり、城のすぐそばを千曲川が流れている。戦国時代に真田氏が拠点としたことから、城下町が発展した。戦国武将・真田信繁(幸村)の像は各地で見られるようだが、駅前にもしっかりと佇んでいた。駅前のそば屋で夕食をとった後、長野新幹線あさま号で東京駅へと向かった。